カテゴリ:2.愛しのマクスウエル( 1 )

Column / Connoisseur`s Detail 2


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六義RIKUGHI
Column | CLASSIC BESPOKE SHOES




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Connoisseur`s Detail

ドーヴァストリートの「マクスウエル」



結局、「Bespoke」というのは、「誰に」よってつくられたのか、或いは「どのような人たち」の手が加わっているのかに左右されます、当たり前ですが、「手縫い」といっても、単純に手縫いに意味があるのではなく、「誰が」手縫いしたのかが重要であることは分かりきっています、

つまり、残念ながら下手な人の「手縫い」はやはり下手で、折り角、技術を持っていても隙あらば手を抜いてやろうと思っている人の「手縫い」は、やはりどうしょうもない、

モノの価値は「需要と供給のバランス」で決まるとどこかで教わりましたが、そんなものは、勝手に決めた「市場経済」だけでの話で、云うまでもなくそのモノの「価値」は単純にそのモノの質と美にあります、需要と供給のバランス或いは流通利益から「決まっ」た「価格」を「価値」と勘違いしてはいけません、

そろそろ、それに気づく時代です、


例えば、「マクスウエル」という靴屋がありました、いまも名前だけは買い取られて残っているそうですが、私にとっては、その名前を思い出すたびに、少し複雑な思いをさせる「名店」でした、


ここに4足の「マクスウエル」があるとします、

一足目は、「マクスウエル」というロゴはついているが工場でつくられた既製靴、
ニ足目はビスポークではあるが、名前だけそうつけられている某シューメーカーでつくられた靴、
三足目は、店がサビルローにあった頃の「マクスウエル」自身のビスポークシューズ、
そして最後の四足目は、サビルロー以前に、ドーヴァストリートに店を構えていた頃、祖父が頼んだフィールドブーツ、
この四足の靴は、「マクスウエル」という同じロゴはついていますが、そのモノが持つ「価値=質,美しさ」としては全く「別物」です、




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マクスウエルという靴屋は、オーナーが頻繁に変わっています、聞くところによると最後のオーナーはあまり「靴に興味がなく」、2000年を過ぎた或る日閉店しました、

口の悪い靴職人は、最後の数年のこの店の靴はおよそ「マクスウエル」と呼べるものではなかった、と私に嘆きました、



f0191114_2322073.jpgサビルローにあった頃のマクスウエルには、私は何度か訪れています、

若い時分の私は、かなりボヘミアンなところがあって、一度はメイフェアを散歩していて、或る事情もあってそのままパリへ出掛けるというようなことがありました、

マクスウエルには、その頃、オフ・ザ・ペグ(既製靴)の靴が3種類ぐらいあって、たまたま辺りにいたので、とりあえず着替えの靴を調達しようと店にはいって試してみましたが、それは、ウラ覚えですが「ブライドルレザー」、つまりグレインカウハイドみたいな硬いものだったのでやめたことがあります、そういう革をつかっていたのには何か理由があったのでしょうか、今思えば、試しに一足買っておけば良かったのかもしれない、



私がやはり、ここでご紹介しておきたいのは、ドーヴァストリートに居を構えていた頃の「マクスウエル」です、
祖父が残していった靴棚には、10数足の当時の美しい「マクスウエル」が並んでいます、

往年の「マクスウエル」は、その美しいクラッシックシューズの在り方で群を抜いていました、それも当然で、この店は英国最古のビスポークシューメーカーなのです、ただし、この店の悲劇は、その質と美しさを維持出来なかったことにあります、「マクスウエル」の素晴らしさは、厳しくいうとドーヴァストリートに店を構えていた1950年代以前のものにのみ宿っています、


この時代の「マックスウエル」には、例えば、やはり歴史のあるもう一軒の有名シューメーカーの靴と比べると、より洗練された美意識があります、パターンやステッチの入り方、踵やラストのつくりに「洗練」と極めて高度な技術があるのです、

この70~80年前につくられた祖父の「フィールドブーツ」は、踵から前の部分はノルヴェーゼで縫われていますが、踵は通常のタウンシューズのように(しかし、極めて精緻に)縫われています、そして、ブーツには実に繊細なステッチワークが施されています、フィールドブーツにしては「洗練」されているのです、





f0191114_1148083.jpgこの当時のマクスウエルの職人の仕事の確かさは、この踵の仕上げにも顕著に見ることが出来ます、
踵がヒールと美しく一体化しているというのはこういうことです、

この仕事には、成熟した技術と丁寧な仕込みが必要となのは云うまでもありません、

いまの多くの靴が、踵の上にただのっかているとしか見えないのは残念です、しかもこの靴は、よく見るとわかるように踵から前はノルヴェーゼで縫われています、それが、祖父の注文だったのか、職人の美意識だったのかは今となっては知る由もありません、その切り替えしは見事としか云う他はなく、私自身も、このブーツに倣って、3度ほどそれぞれ異なるシューメーカーでそれを試して見ましたが、このブーツの間断なく、何の矛盾も見せない見事なつくりを越えるものはありませんでした、




f0191114_11512312.jpgフロントのモカ縫いもいまのものと比べて丁寧に仕上げられています、

この革は一種のベジタブルタンニンだと思いますが、100年近くたった今も、時を経てワックスが染み込んでふくよかな表情を見せています、

この精緻さと、堂々として、かつ豊かに美しい「クラッシック」を見ると、いかに今のビスポークシューズが「痩せ細って」いて、「レトルト」っぽいかが分かります、





70年代前後、私がマクスウエルを覗いた時も、置いてある古のサンプルが他では見ないようなパターンや、穴飾りだったのに目を奪われたのを覚えています、美しいのです、例えば、マクスウエルの「W字」の短いキャップのブローグの美しさと味わい深さは、大久保と何度もそれを越えるものを創ろうとしていますが適いません、






「ビスポークシューズ」は80年代を境に変わってしまいました、それは、極く私見ですが、確かにそう思えて仕方ありません、その理由は、シンプルに職人の変質だといえます、
「変質」というのは、上手い職人の数が減ったということだけでなく、まさしく「質」が変わってしまったということです、
1970年代に50代の職人は1920年代生まれで、その時代の職人のエトスを引き継いでいます、しかも1910年代生まれで、1930年代に20歳を越えていて、30年代の黄金期を体験している職人もまだ70年代には現役で残っていました、2009年の今、1960年生まれの職人が50歳手前ということになります


現在の50代の職人が弟子入りをしたのは、1970年代後半から80年初頭で、この70年後半~80年代初頭にかけて、30年代の黄金期を支えた老職人は引退し、多くの店(私がはじめてビスポークの靴を誂えた「ブール」をはじめ、店主自身が秀でた職人で、後継者もいなくて閉めてしまった小さな店にこそ、古のスタイルや技術が実は残っていたように思う、)がバタバタとクローズしはじめます、私は、実際にそれを目の当たりにしてきたからハッキリということが出来ます、ある意味で、古の良き時代の「具体的な終焉」でした、





特に、英国では分業制が徹底していますから、実は、本当に靴をつくっているのは、アウトワーカーだということになります、
ところが、このアウトワーカーたちは、「一匹狼」のようなもので、ほとんど「アプレンテイスト(弟子)」をとりません、その余裕もないのかもしれません、

そして英国の職人気質というのは、良い職人ほど自分の技術というのを「大切」にしています、そう簡単には「秘伝」を人には教えません、職人によっては弟子に対しても技術を教えるときには「教え代」を要求すると聞いたこともあります、
そして、技術は職人の手に宿っています、当たり前ですが言葉では同じ「縫い」でも、職人によってその「質」は違ってきます、いくら教えたところで、結局は、その職人の天分によります、

こうして、多くの素晴らしい技術は職人とともに消え、私が分析した限りでは意外にそれは引き継がれてはいません、実際の「製作面=靴のつくりそのもの」から検証した英国の靴の歴史は、「質」という意味では「ニヒル」なまでに分断されています、創業何年といっても、その歴史にはほとんど意味はなく、実際にはいま現状のアウトワーカーの「質」に左右されています、そのいくつかは日本のアウトワーカーがつくっていたりもします、



マクスウエルの「悲劇」は、こうした実情がその因となっていると思います、

しかし、このマクスウエルのフィールドブーツは美しい、その仕立てだけでなく、革、3ピースのシューツリーを含めて美しいと思います、


何故、この靴が今やつくれないのかを、私たちは考えなければいけません、







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by bespokerikughi | 2009-02-15 13:40 | 2.愛しのマクスウエル